Question(以下Q)「えッ!話がいきなり変わりましたね。チヌの中でオキアミを嫌うものがいるということですか?まさかと思いますけど、松田さんが嘘を教えるはずは無いですし。オキアミは万能餌と言われていますけど、それを食わないということでしょうか?」
会長(以下、太文字)うん。そんなチヌもおるんよ。
Q「オキアミを嫌っているということが、どうしてわかります?」
例えばな、わしらは秋でもオキアミを持ってチヌ釣りに行く。魚影が濃い釣り場やったら、オキアミでも多少は釣れるわな。ところが、あとが続かんことがようある。
あの手この手を使っても釣れんところへ、その土地の釣り人が一人でひょっこり磯上がりしてきて、わしらの近くでチヌをちゃっちゃと釣っていくのを何度か見た。そんな時、他の釣り師が持ってる餌を見せてもろたら、虫餌であったり、貝とか小ガニなんかであることが多かった。
オキアミで釣れんチヌが、オキアミ以外の餌では釣れるんや。オキアミを嫌うてるとしか考えようがないわな。
Q「なるほど。そんなこともあったんですか。なぜオキアミを嫌うんでしょうね?」
話しとしてオキアミ嫌いと言うたけど、別に嫌うてるわけではないかもしれん。オキアミを撒いても見向きもせんということやな。
多分、春から秋にかけて、浅場で海藻とか小動物ばかり餌にしてそれで慣れてしもうたからやろうと思うな。
Q「うーん。。ただちょっと気持ちに引っ掛かりが残りますねぇ。」
なんでや?
Q「魚の中でオキアミに見向かないものがいるというのが、私には信じられないようなことなんですよ。」
わからんでもないけど、事実や。わしはさっき言うた通り、いつも観察眼をもって釣りをしてる。釣れた時でさえ、何で釣れるんかなぁと思う事もあるほどや。
まして、自分の方は釣れんのに人ばっかり釣ってれば、何でわしには釣れんのかな、と真剣に考える。仕掛けかハリか、ウキか餌かと、いろんな面を考えて、何度も何度も挑戦してるんや。そしたら、だんだんとわかってくるんでな。
Q「いや~、松田さんの釣りに対する真摯な姿勢というのは十分にわかっていますよ。」
うん。それは別にして、まぁ聞いとき。
チヌの餌の事でもそうよ。オキアミで釣れんのに、他の餌で釣れるんがわかったら、次からは餌を2~3種類持って磯上がりする。そんで、オキアミでは釣れんようになったら餌を変えてる。で、釣ったらすぐに腹を裂いて胃の中身を調べるようにしたんや。
Q「釣ってすぐ?」
そうや。オキアミで釣れんチヌは、ほんまにオキアミを食わんのかなと疑問に思うたからよ。疑問に思うたのにはもう一つ裏がある。
Q「どんなことです?」
刺し餌は食わんけど、撒き餌は拾うてるんと違うんやろか、という疑問や。疑問というんか、心配かな。
Q「心配?」
胃の中身を調べてみて、もしもオキアミがぎょうさん詰まってたら、撒き餌は拾うてるのに刺し餌に見向かんかったということや。一つは刺し餌が撒き餌と一致しとらんのと違うかということ。
タナがちゃんと合わされてなかったんと違うかとか、仕掛けの流し方が悪かったんかなというように、釣技の欠点ということも考えなならんやろう?
Q「うーん。なるほどねぇ。」
そうやって何度も繰り返したんよ。そしたら最終的には、オキアミに見向こうとせんチヌもおることがわかったんや。
Q「徹底した調査ですね。ただ感心する以外にありませんわ。」
もちろん失敗したこともあるけどな。
Q「失敗?どんな?」
そやなぁ、そのうちの一つは、チヌは下戸みたいなもんやということを知らなんだことや。
Q「ん?下戸みたい?」
うん。チヌはいったん食った餌でも、吐き出すことがあるということや。
撒き餌を食うとるはずやのに、釣った後で胃を調べたらオキアミが無いんよ。てっきりオキアミを食わんヤツがおると思うて餌を変えて釣りをしとった。餌がオキアミとは違うんやけん、撒き餌をたっぷり打ってというわけにはいかん。1匹ずつに食わして釣らなならんわけや。しんどい釣りをすることになるわな。オキアミを食うとるんやったらオキアミで釣れるんやから、まだ釣り方としてはマシな方なんや。
Q「いったん食べた餌を吐き出すというような魚は他にもいますかねぇ。」
わからんけど、わしが知る限りではチヌだけのようやな。
Q「それにしても不思議な習性ですね。なぜそんなことをするんでしょう?」
うーん、考えられるんは、アタリがでて合わせる。当然ハリ掛かりするわな。そしたら、危険を感じて刺し餌を吐き出そうとする。その時にそれまで食うた餌も一緒に吐き出されてくるんと違うかということや。
Q「あー、そうか。なるほどね。」
それから考えれば、チヌが吐き出すものは、撒き餌を始めてから一時間くらいまでの間に食うたオキアミなんかやな。それ以上経過したもんは吐き出さんようや。
Q「じゃあ、釣ったチヌの胃の内容物を調べようと思ったら、一時間以上撒き餌した後で釣ったチヌについて調べなければ本当のところは分かりませんねぇ?」
その通りやな。
Q「いやぁよくわかりました。しかし、オキアミに見向かないチヌが春先にもいるというようなことはありませんか?」
そらあ、無いのと違うか。乗っ込んできたチヌは産卵のための体力を回復するのに一生懸命なはずやからな。オキアミ以外のもんも食うてるやろうけど、それに慣れるというところまではまだいっとらんはずや。
Q「あー、そうか。とすれば、乗っ込みチヌはオキアミ一本でやれるけれども、秋の場合はそうもいかないことがある、と考えて計画しなければなりませんねぇ。」
その方が無難やろうな。
Q「オキアミに見向きもしないのだったら、オキアミを撒いても浮かないということになりますね?」
オキアミに反応を示さんチヌに限ったことではないわな。秋のチヌは、浮かんのがほとんどや。
Q「う?浮かない?」
例外もあるけど、秋のチヌは春先の乗っ込みチヌのように浮こうとはせん。
春先は乗っ込んできたばかりやけん、貪欲にエサをあさる。だから、上から落ちてくる餌を見つけたら上へ上へと拾うていくんや。ところが、テリトリーを持って餌場を確保したら、底にある海藻とか貝、カニ、小動物なんかを食うようになるわな。それで慣れてしまうけん、秋まで居残ったチヌは、上へ向こうて餌を拾いにいかんのやと思うな。
Q「ふーん、就餌の習慣から浮かないというわけですね?」
もちろんそれだけが理由じゃない。チヌは乗っ込み時から始まって、ずっと釣り師に狙われてるやろう。自然と危険に対してより敏感になってるわな。オキアミ撒いても浮こうとせんのと違うか。
Q「就餌の習慣と危険察知の為とでは、浮かない要素としてはどちらが強いでしょうね?」
難しことを聞くなぁ。秋のチヌは浮きにくいんやという結論だけでは満足できんのやな?(笑)
Q「ええ、まぁそういうことです。」
そらあ、どちらかと言われれば、釣り人に追い回されて用心深くなってる為という方が強いやろう。わしがさっき「例外もあるけど」というたんを覚えてるか?
それが根拠の一つよ。例外と言うんは秋のチヌと言うても、条件によっては浮くこともあるということや。秋のチヌは浮かんのが一般的なんやけど、例えば、小荒れした日なんかには浮くこともあるんよ。大荒れの日は釣りにならんけど、小荒れやったら釣りは可能や。そんなときに撒き餌で浮くこともある。ということは、釣り師の姿が見えんとか、自分の姿を隠しておけるということで安心できるからと違うか。だから、浮かんのは用心しているため、という方が強いと思うんや。
Q「なるほど、納得できます。用心して浮かないとなりますと、釣り方も考えなければなりませんね。」
そらぁ当たり前や。浮くチヌとおんなじように考えとったんでは、釣れるもんも釣れんということになるんでな。
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