本日はちょっとこんなお話をしようかと。
「なぜ時化後は釣れたのか、その本質を理解しろ!」
〇時化後はチャンスではない!
時化後がチャンス!釣りの世界ではよくこのフレーズにお目にかかる。
海が時化た後はよく釣れるという格言は事実だったし、誰もが認めていた。
理由は2つある。
まず、海水が濁る。警戒心の強い魚はそれにごまかされ、鈎やハリスのついた餌でも食う。
次に、釣り人が何日も上がってないと、撒き餌が入らない。
普段、それを常食としている魚は飢えているから、釣り人がやってくるのを待ち望んでいる。
少々水温が下がったところで食欲には勝てないから、刺し餌には次々と飛びついていたのだ。
ところが、今はこの格言が通用しない。
一週間や十日、撒き餌が入らなくとも、栄養状態が良いから飢えることはない。
加えて、人間の怖さを忘れてはいない。
鮎を例にとってみよう。
解禁直後は人間を知らないから、非常に釣りやすい。解禁から1か月たっても、釣り人がパラパラとしか来ない川なら、まだ鮎は人間を知らない。
ところが、大都市の近くでは、1日に何千人もが一つの川に入る。
すると、一週間で人間を知ってしまう。
安心して縄張りが作れず、本能に従ってオトリを追い払うこともできない。
同様にグレは、小さいときから人間の怖さを味わっている。
一週間やそこらで忘れることはない。
〇時化るとヘドロが流れ出る
時化後がチャンスになったもう一つの理由「濁り」も、近年は当てにならない。
当てになるどころか、逆に濁ったら一切食わなくなる可能性がある。
なぜか?
松田いわく、
「ええ濁りやないからや」
濁りにいいも悪いもなさそうなものだが、松田の見解からするとそうではない。
昔の濁りとは、磯の上を波が洗った結果、エビやカニなど魚の餌である小動物を含んでいた。
鈎やハリスが見えにくくなるのと同時に、それらが出てくるから魚は活性が高くなっていたのだ。
それに対して、今の濁りとは、養殖場の海底で形成されたヘドロを指す。
現在では、波穏やかで水深がそこそこに良いところでは、ほとんどの海域で魚の養殖をやっている。餌をやりっぱなしの養殖イケスの下は当然、食べかすが溜まり、ヘドロ状態と化している。
普段は流れが押さえ込んでいるから周囲には影響がない。
が、ひとたび時化ると、かき混ぜられ、外海に流れ出す。
松田が慣れ親しんだ鳴門の海も同様で、すり鉢状の海底にヘドロが溜まっている。
普段は流れがその上を通り過ぎるだけだが、時化るとそれが流れ出る。
もちろん、ヘドロが流れ出るとき、流れ出ないときの潮の向きがある。
同じ時化でも、沖から押さえ込んでいるときは食う。
が、風の方向が変わり、湾の中から濁りが出てゆくと、水温は変わらないのにピタッと食わなくなる。
また入江や岬が少なく、養殖場がないところだったら、いくら時化ても魚の活性が落ちることはない。離島も同様だ。
〇酸素不足では、魚は大きくなれない
養殖に絡んで、赤潮の問題にも触れておこう。
以前はあれだけ騒がれていた赤潮が、このごろは瀬戸内海であまり発生しなくなった。
「養殖業者が全部潰れてしもうたからや」
松田が指摘した理由がこれだった。
今の養殖は、魚が100尾しか住めない狭い海域に何万尾も魚を入れる。
そして、早く大きくするために餌を大量に投下する。
その結果、餌の食べかすを分解するプランクトンが異常に増え、それでも分解しきれない食べかすが海底に沈殿する。
池で飼っているコイに、それと同じことをやったらどうなるだろう。
餌を大量に与えると池は、ろ過能力を失い、水が汚れてコイは死んでしまう。
海は広大とはいえ、自浄能力を超えるとやはり水質は汚くなる。
結果として赤潮が発生する。
※赤潮とは、プランクトンが海面近くで急速に繁殖した結果、海水が赤褐色に見える現象。富栄養化(=リンや窒素を含む汚水が流入し、プランクトンが異常に発生するなどして水質が汚濁すること)した内湾でしばしば発生する
養殖を中断したら、赤潮はあまり出なくなった。
「やっぱり人間の破壊やな」
松田の指摘は正しかったことが証明された形となった。
さらに、養殖は酸素不足という事態を引き起こすことも松田は付け加えた。
狭い海域にたくさんの生物を詰め込むと、必然的に酸素が少なくなる。
すると、食欲が減退するのか、あまり餌を食わなくなる。
その結果、成長が鈍り、健康ではなくなる。
「酸欠じゃないんやけどな。ほんまは100ないといかん酸素が90とか80になったら、大きくならんし、弱い魚になるんじゃ」
松田はこのことを、水槽実験で確かめている。
海藻が非常に多ければ酸素を出すから、少々過密でも魚は正常に育つかもしれない。
しかし、海藻は浅いところにしか生えないのに、人間は浅いところをどんどん埋め立てている。
「陸上でもやぞ、日本人がジャングルを切って切って切りまくるもんやから、酸素がバーッと減ってしもうた」
松田が言うように、酸素の全体量が減っているから、当然水の中も減っている。
会長は釣りをするのであれば、こういった知識も釣り人に身に付けていって欲しいと考えています。
ー松田稔のグレ釣りバイブル・釣ってなんぼや! 1997年出版より引用ー
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