松田さんは「チヌならいつでも釣れる」といとも簡単に言う。
もちろん自信がいわせるのであろう。
また、それだけの実力の持ち主であることも十分承知している。
しかし、前面の海を見る限り、チヌはおろか小魚さえいないのではないか、
と私には思えてならない。
まず第一に浅場であること。次に見通せる限りでは、魚の住み家となるような障害物が見当たらない。そのうえ、海はトロンとして流れが感じられず、まるで池のようなのである。
どう考えてもチヌが釣れる雰囲気が伝わってこないのだ。
もしも私が一人だけでこの磯に上げられたら、たちまち釣意喪失したろうと思う。
そんな気持ちを松田さんにぶつけてみることにした。
Question(以下Q)「松田さん、この前の海を見てどう思いますか?」
会長(以下、太文字)というと?
Q「釣れる気がします?」
釣れる気?何でや?
Q「浅すぎるのと違いますか?」
うん、浅いことは浅いな。というてもそこそこの深さはあるはずや。
1ヒロや2ヒロの深さとは違うわな。
Q「まあ、多少は水深もあるでしょうけど、高場から覗いてもみてもシモリなどは見えないでしょう?」
そやなぁ、海の色の濃い場所が見えんけん、シモリはないかもわからん。
Q「流れもなさそうですし、こんな場所ですから釣れそうな気がしないんですがねぇ」
あー、そのことか。海は牧場とは違うんでな。
Q「えっ?」
囲いがないんよ。
Q「ん?」
わからんか?
Q「はぁ、何のことかちょっと、、、。」
大きく言うたら、海は全部つながっとるということよ。どこまでいっても続いとるはずや。
極端なことをいえば、この前の海とハワイの海は続いとるわな。
Q「それはわかります」
海にはどこも仕切りがないはずや。
Q「そのとおりです。しかし、そのことと、この前の海で釣りをするのとどんな関連があるんです?」
そやからさっき言うたはずやがなぁ。
Q「牧場ではないとか、囲いや仕切りがない、という説明だけですけどねぇ。」
それよ。それで十分やろう?
Q「また松田さんのわるいクセが出ましたねぇ(笑)このままではお手上げですわ。
もう少し解説してもらませんか?」
君はさっき何をいうとったんかなぁ?
Q「この前の海を見る限りでは釣れる気がしない、といったんですけどねぇ。」
見ただけで、釣れる釣れんということがわかるん?
Q「いや、確実にそうだと断言しているわけではないんですよ。何となく雰囲気でつれそうだなぁとか、どうももう一つパッとせんなぁと思うことがあるじゃないですか。」
あー、そのことか。それは個人の好みの問題やと思うな。
Q「個人の好み、ですか?」
そうや。釣れそうな場所やとか、そうでない場所やなぁ思うんは、釣り人がそれまで経験してきた釣りから割り出し、結論から導き出した感覚やと思うな。荒磯ばっかりでやってきた人間は、とろんとした海を見ると釣れそうにない、と感じるかもしれん。またその逆のこともいえる。
例えばわしが『おっ!ここはええ場所や』と思うても、君が見たら『何やこんなところ、釣れるんかいな』と思うかもしれんしな。
Q「なるほど、いわれてみればそうですねぇ。」
釣れそうにないなぁ、と思うた釣り場で大釣りした経験はないか?
Q「ありますねぇ、松田さんに堂浦の一文字波止に連れて行ってもらったときもそうでしたよ。」
そうやろう。そやから釣り場を見ただけで釣れそうやとか釣れんのと違うか、と考えるんは個人の好みやというとるんよ。
Q「なるほど。じゃあこの磯に対する私の『釣れそうにない』という感覚は外れるかもしれませんねぇ。しかし、見た限りではあまりパッとしないと思いませんか?」
そらぁ表磯に比べたら磯という感じは薄いわな。
Q「浅いうえにシモリも見えないでしょう?といって、磯際は沖へ向かってダラダラと坂状に落ち込んでますから、魚がいそうに思えないんですよ。」
ははあ、混同しとるな。
Q「混同?」
そうや。グレ釣りと混同してるんと違うか?グレ釣りの時にも話したと思うけど、グレ釣りの場合は、グレがおる場所へ行って釣るわな。グレは岩礁を住み家にするけん、シモリなんかがないと釣りにならん。もちろん磯際も当然住み家になってると見てよいのや。
Q「すると、チヌ釣りの場合は、グレのようにシモリなどは必要ないんですか?」
必要な時期と必要ない時期がある。今は必要ない時期の方やな。(※当時5月8日)
Q「ほほう、時期によっても磯選びが違うわけですね?」
うん。そやから君がさっきからシモリなんかの障害物がこの前の海には見当たらん、魚がおらんのと違うかというてるのは、グレ釣りと混同してるんやな、と思うたんよ。
Q「なるほどねぇ。じゃあこの磯の状態でも、チヌが釣れる可能性はあるんですね?」
釣れるか釣れんかはやってみんことにはわからん。わしも初めて上がった磯やけん、実績のあるなしもわかっとらんでな。そやけど、ここへ上げられたんや。やらないかんわな。多分釣れるんと違うか。
Q「チヌがいるのかどうかもわからないのにですか?」
そやから最初にいうたやろう。海は牧場と違うけん、囲いはないんや、と。
Q「あーそうでした。その意味をまだ教えてもらっていませんでしたわ。」
『囲いがない』という意味な、解説する前にちょっとだけ尋ねるわ。
魚が住み家とか身を隠せるような障害物が無くて、狙った魚がおるかどうかもわからん釣り場なんや。そしたらどうすればよいかやな。
Q「私ならそんな釣り場からは逃げ出しますねぇ。」
逃げ出してどうするん?
Q「適当な場所を捜しますわ。」
釣り人が多くて、他にええ磯がなかったら?
Q「そのときは仕方がないから空いている磯で竿を出すしか方法がありませんねぇ。」
そうやろう?今日のこの磯が、ちょうどそういう条件になってるはずや。
はっきり言うて、グレを狙うんやったらちょっと難しいな。しかし、今の時期でチヌやったら何とかなると思うわ。
Q「ほーう、そうですか。どうやるんです?」
寄せるんや
Q「どこから?」
そらぁわからん。両サイドの磯かもしれんし、沖から寄ってくるかもわからん。
Q「そう簡単に寄ってきます?」
簡単というわけにはいかんかもしれん。そやけど、この海域にチヌがおるんやったら、一時間以内に寄ってくるな。
Q「海域、ですか?広いですねぇ。」
そうや。というても、この対岸あたりとか、はるか彼方からなどと無茶苦茶に遠い場所を含めてるんとは違う。沖というてもせいぜい400~500メートル、また左右の遠いところを含んだ海域よ。
Q「うーん、それにしても広い範囲ですねぇ。寄りますか?」
そやからさっきも海には囲いや仕切りはない、というたやろう。
Q「あー、松田さんがしきりに海は牧場じゃないと言ってたのは、そのことだったんですか。」
そうや。今の時期のチヌは、広い範囲を動き回るんや。そやから、おれば必ず寄ってくる。
よほど良い餌を見つけん限り、一か所にじっとしとらんと思うな。
Q「寄せるというのは、もちろん撒き餌ででしょう?」
そうや。
Q「見た限りでは、この前の海には流れも無さそうに思えますけど。」
流れ?
Q「そうです。潮流ですわ。潮が全く動かなければ釣りにならんのと違います?多少でも動いているんなら、少しぐらいは期待が持てると思ったんですけどね。」
君はどうやら釣りに関して固定的な観念を持っているようやなぁ。
Q「えっ、私が?」
そうや。さっきのシモリのこととか、潮流とか、それがないと魚は釣れんと思うてるんと違うか?
Q「といいますと、そうではないんですか?」
うん。グレにしろチヌにしろ、流れがないと釣れんというもんとは違う。
Q「じゃあ潮流がなくても釣れるんですね?」
釣れるよ。
また長々と書いてしまいました。
この続きは次回書かせていただきますね。
ー松田稔のグレ・チヌ攻撃的戦術 1994年出版より引用ー
コメントをお書きください
ジャン (金曜日, 08 3月 2019 22:34)
今回は、さすがに永遠に続くんじゃないですかって思うくらい長いやりとりでしたね。
私はバス釣りを昔やってて釣り場といえば、ため池やダム湖などで、よくやってました。たまに、友人に誘われて海釣りもいきましたが、ため池やダム湖と違って、海ってつながっていて、ため池やダム湖のように、前ポイントを攻めてどこかに必ず魚はいるって確信をもってやれてましたが、海の場合、とても攻めきれませんよね、果てしなく続いているので、だから海釣りは苦手で、あまり行かなくなりましたが、今回のブログを、読ませてもらってなるほど、海釣りって色々な考え方釣り方あるのですね。
もっともっとブログで勉強させてもらって、いつかまた、海釣りに挑戦してみようと思います。
次回も楽しみにしていますね。
有限会社エムアンドエム (土曜日, 09 3月 2019 12:26)
ジャン様
コメントありがとうございます。
今回のブログが参考になさって頂けたら嬉しいです。
海釣りは色々な考え方があり奥が深いと思います。
是非、海釣りも挑戦して下さい。